後宮楽園球場 ハレムリーグ・ベースボール/石川博品,wingheart

「女装少年出仕」から幕を明け、「女装少年出世」で幕を閉じるお話。
ある野心から女装して宮女として後宮に侵入した香燻は、そこで在籍することになる下臈所にて野球……ハレムリーグ・ベースボールに参加することに……というある意味シンプルなお話……これは、「ある意味」だとしてもシンプルなのか……?

女子ばかりの場所に見目麗しい男子が女装をして侵入したり生活したりするというパターンは特段珍しいというわけではない。漫画やアニメやゲーム、そしてラノベでも過去にそういった作品はあるが、その先で……しかも後宮で……野球をやるという意味がわからないw
意味はわからない。どうしてこうなったとも言いたくもなる。なのだが、読んでみると、とんでもなく熱く、面白い。
ドロドロとした後宮の人間関係……権力に塗れ、野心に溢れ、思惑に絡まり、感情を押し出して行われる、ハレムリーグ・ベースボール。白球に懸ける彼女たちの情熱に、心打たれる。場外ホームラン級に打たれる。
白球を追いかける時の彼女たちのそれは、後宮の権力争いや人間関係のそれとは切り離された清々しさがあるにも関わらず、上手く反映もされていて、それがスポーツの熱を上げ、読む者の熱をも上げていく。その熱、それが本物のスポーツに似ている感触があって、読む者の心にずっしりと響く。
読み終わり気がつくと、外国の後宮の宮女たちは野球をして過ごしていたのだ、日本の大奥もハレムリーグ・ベースボールを開催するべきだった、そう思ってしまうまである。

と、まぁこんな感じで、後宮というどうしてもドロドロな人間関係を連想してしまう場に、野球というフィクションでもスポ根ど真ん中のジャンルをぶち込むという荒業をやってのけ、更にめちゃくちゃ面白いエンターテイメントに仕上げるという、石川博品さんの底知れなさを見た気がしました。
また、文章の巧みさ……と書くと所謂文章力的に捉えられるかもしれないけど、そうではなく、読みやすさとでも言えばいいのか。心地よい文章も特徴的。
石川博品さんは、クセの強いストーリーを作ってくる印象だけれど、何故か頭にスルスルと入ってくる印象もある。それは、そのへんにあるのかなぁなどと思った。

一応、この巻でお話のある程度の着地はしていますが、まだまだ先を読みたくて仕方のないお話。是非とも、続きをお願いしたいところ。
続き、お願いします!

好きラノ2013下期投票エントリ

2013下半期好きなライトノベルを投票しよう!! 用エントリ。

『葵くんとシュレーディンガーの彼女たち』渡会ななみ,もぐも(電撃文庫)【13下期ラノベ投票/9784048919463】
量子論や多世界解釈というようなことを絡めた良質な青春SFラノベ。とはいえ小難しい話はあまりないのでご安心を。
寝るのが大好きな高校生・葵は、隣の家のカーテンが水玉かストライプかを確認することから1日が始まる。眠ると別の世界に飛ばされてしまうからだ。
ヒロインはカーテンの主、幼馴染である。これに関して確率が重なり合っているということはない。どちらも幼馴染。つまり、シュレーディンガーの幼馴染ヒロイン[完全版]である。幼馴染ヒロイン大勝利。
ラノベなSF好きには勿論、幼馴染ヒロイン好きにもオススメしたい1冊。

『エスケヱプ・スピヰド 伍』九岡望,吟(電撃文庫)【13下期ラノベ投票/9784048661232】
映画張りの激渋表紙からの、裏表紙は遂に《甲虫》勢から鍬形! かわかっこいい!!
そんな鍬形の乗り手である朧を始め、過去から現在に繋がっていき、復活する蜂と蜻蛉によって、更に加速する神速バトルアクション。面白すぎだぞエスケヱプ・スピヰド!
あと、口絵の竜胆・巴・剣菱を見るだけで幸せな気持ちになる……からの本文157頁。吟さん気合い入り過ぎや……! 早く続き読みたし。

『王子降臨』手代木正太郎,mov659(ガガガ文庫)【13下期ラノベ投票/9784094514230】
時は戦国、戦と飢饉によって荒れ狂う乱世に金髪碧眼の王子、降臨……!
ある意味ではそれだけの作品である。しかし、これほどドラマティックに、これほどエモーショナルに、そしてこれほど美しい作品があっただろうか、いy
第7回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作品。山田風太郎的な世界観、コミカルながら妙に重厚なモノすら感じさせかねない背景、そして、王子降臨。この組み合わせが何故かわからないがとんでもない魔法を生み出している。
ヒロイン(?)の鳶丸はものすごく可愛いし、脇を固めるキャラもとても魅力的。

『密葬 ―わたしを離さないで―』江波光則,くまおり純(ガガガ文庫)【13下期ラノベ投票/9784094514377】
『鳥葬』の続編。
陵司が同級生・真琴にモップで殴りかかって停学になったことから始まる青春小説。
真琴という人間、停学免除を釣り餌にある提案をする左翼教師・間宮……歪んでいく日常に、過去に、人間関係に、陵司は更に向き合うことになっていく。
どういった色の作品でも失わない読者を惹き込む江波作品の引力が、目を背けたくなるような感情や心情を読者に刻みつけてくる。ラストシーンは何でもない場面だけど、こんな風に描かれた作品だからこそ、心に響く。
……それにしても、間宮先生怖すぎる……!

『王子降臨 2 王子再臨』手代木正太郎,mov659(ガガガ文庫)【13下期ラノベ投票/9784094514421】
相変わらず凄いの一言。
なんでこんなに凄いのだろうとわからずに悩むこともあるけれど、最終的には「王子だからである」と考えられるようになる。これが読者に成立してる時点で、この作品は何をやっても面白くなってしまう。
あと、イラストのmov659さん、いい仕事し過ぎです。桃の花と王子な48頁とか、少年図と呼びたくなる55頁とか、見所は多いけど、圧巻は189頁。男子向けラノベでこれを成立させる豪腕。だがそれがいい。
3巻が楽しみ過ぎです。

『殺戮のマトリクスエッジ』桜井光,すみ兵(ガガガ文庫)【13下期ラノベ投票/9784094514483】
男の子向けサイバーパンクアクション満載な作品。
ゲームのライターである桜井光さんのラノベデビュー作とのことだけど、それ故なのか情景が浮かびやすい描写が個人的に◎。SNSや掲示板のログ、ニュースなどを使った状況説明的な部分はとてもハマっていたように思う。
何より好きなのは、もう一人のヒロイン、ユーノのパート。直球で男の子向け! なこの作品において、絶妙な薬味になっていると思います。
続刊がとても楽しみ。

『デスニードラウンド ラウンド2』アサウラ,赤井てら(オーバーラップ文庫)【13下期ラノベ投票/9784906866274】
血と硝煙と秋刀魚を焼く煙が煙るライトノベル!
凄惨なバトルシーンと、時間によっては凄惨な食事シーン。秋に秋刀魚は反則やろ……!
2巻で登場するマスコットキャラクターは警視庁のアレ。のっけから彼の凄惨な殺戮シーンから始まるわけですが……まぁよく考えたら、あのラリってる表情とドハマリしてるというかw
そして、主人公・ユリと、今回出てきた美鳳、前巻でも出てきた宇佐美のイチャイチャに癒される。ガンアクションご飯百合ライトノベル! 最高や!

『クレイとフィンと夢見た手紙』友野詳,スオウ(MF文庫J)【13下期ラノベ投票/9784840154109】
2人の郵便配達人によって届けられる、つぎはぎな世界の手紙の物語。
2人の男子に飾られた表紙が印象的なこの作品ですが、やはりこの2人が魅力的。自称頭脳労働担当のフィンと、そのフィンに肉体労働を押しつけられるクレイ。珍しくない関係性だろうけどやはり楽しい。
また、形式として5編の短編で成り立っているのだけど、短編小説的な軽さを持ち合わせつつ、巧くつぎはぎの世界を繋げていて、いいとこ取りをしている。ズルいw
2巻が近日出ました。読むのが楽しみです。

『後宮楽園球場 ハレムリーグベースボール』石川博品,wingheart(スーパーダッシュ文庫)【13下期ラノベ投票/9784086307673】
「女装少年出仕」から幕を明け、「女装少年出世」で幕を閉じるお話。
女子ばかりの場所に見目麗しい女装少年が侵入するというパターンは特段珍しいというわけではない……が、その先で(しかも後宮で)野球をやるという意味がわからないw
意味はわからない。わからないが、とんでもなく面白く、熱い。
彼女たちの白球に懸ける情熱が、上を目指す野心が、交錯する感情と思惑が、読み終わると後宮の宮女は野球をして過ごしていたのだ、そう思ってしまう、まである。

『ヴァンパイア・サマータイム』石川博品,切符(ファミ通文庫)【13下期ラノベ投票/9784047290112】
昼の世界を人間が夜の世界を吸血鬼が主として暮らす世界。
吸血鬼が怪物とかではなく、まるで昼間の高校生とその夜間部の生徒くらいの感覚で表現される。その中での人間である頼雅と吸血鬼である綾萌の恋愛模様が紡がれていく。
頼雅と綾萌の視点をバトンで繋いで、感覚と感情がそのズレが交錯しながら物語に乗せられ、人と吸血鬼との恋愛が(読者も)あたかも普通の恋愛であるかのように錯覚する。そしてそれ故のラストに心臓を掴まれた感覚。
最後は色々な捉え方があるとは思うけど、後を引く読後感でとてもよかった。タイトル通り、夏に読みたい気分がする本。

I.R:I.S 1 Indirect Ruler : Infinite Seizor/澄守彩,シロウ

『魔法使いなら味噌を喰え!』の澄守彩さんとシロウさんのコンビで送る新作。
前回は魔法だったけど、今回は超能力。味噌は出てきませんw
タイトルはアイリスと読むようです。
超能力の源として、色とりどりのエネルギーが出てくるので、虹やギリシャ神話のイリスのことでしょうか。

超能力者が支配する世界のお話。その世界では超能力を目覚めた少年少女は人工の島に集められ、そこで超能力者として育成される……といった背景。主人公の黒鋼和人はその島に集められた一人。
この世界を支配する超能力。その源は空間を漂う「エーテル」と呼ばれるエネルギー。能力者はこれを支配して利用することで超能力を使うことができる。支配力が弱いと弱い超能力しか使えない。また、空間を漂うエーテルは一定量であるらしく、支配領域が狭いとエーテルを確保できない為、またそれも超能力が使えない……というような様相。
で、肝心のこのお話の主人公である和人だが、その支配領域は2.7cm。普通の能力者……と書くと変な感じがするがw、まぁ普通の能力者が数m〜数十mに及ぶのに対し、2.7cm。
この島では訓練としてチームを組んで模擬戦のようなことをやったりするわけだけど、頑丈ということ以外に強みを持たない和人はチームを転々とする日々。
そんな落ちこぼれの和人を、ある日、圧倒的なエーテルの支配力と支配領域を持って一人で連戦連勝する、学内序列1位の皇理緒が和人にチームと組むことを持ちかける……といった感じで転がり始める物語。

味噌喰えであったような泥臭いアクションと、楽しいキャラの掛け合いは健在。 異能バトルは二の次と言わんばかりに、キャラの人間関係をしっかり描かれるあたりも好み……と、読んでいたら中盤あたりから特撮ヒーローモノになっていた。何を言ってるかわからないかもしれないg
いや、まぁそこまで特撮ヒーローではないのだけどw
キャラたちが魅力的なのも相変わらず。メインの二人に割って入る、もう一人のヒロイン・鑓見内春姫の謎方言は、あざといと思いながらも可愛いと思わないではいられない。その3人を取り巻く人たちもそれぞれ面白そうなキャラで、先々が楽しそう。
ただ、味噌喰えの呪文詠唱が凄い好きだったので、そういったモノが今回ないのは残念だったけど、概ね面白かった。

シロウさんのイラストも相変わらず素晴らしい。今にも動き出しそうなシロウさんの絵をライトノベルの挿絵で見られるのは幸せ以外の何物でもない。
場面を切り取って、その中で動くキャラを想像して描かれたような絵は、見ていて楽しくなる。

というわけで、2巻ももう出てるので、近々読みたいところ。

水木しげ子さんと結ばれました/真坂マサル,生煮え

真坂マサル
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
¥ 620
(2014-02-08)

第20回電撃小説大賞20回記念特別賞受賞作。
電撃小説大賞の20回記念特別賞、というのがどういう位置づけになるのかわからないんだけどw、作品自体はとても面白かったです。
どういった作品なのかというところですが、転校初日で死体を埋める穴を掘る場面からスタートする小説と言えばいいだろうか。
実のところを言えば、この作品、買うにあたって、タイトルにある「水木しげ子さん」というのは、所謂、漫画『君に届け』の「サダコ」的なアレで内容的には甘酸っぱくてラブい、そういうのをラノベに再構成したような、そんな作品なんじゃないかと、そんな風に思って買ったわけですが……そんなわけはなかった。
帯に入間人間さんが「これが大賞じゃない? 相変わらず、見る目のない連中だ」って書いてるじゃんなー。
今にして思えば、なんでそんな思い違いをしたのか……。

さて、そんな主人公である楠見朝生が死体を埋めるための穴を掘る場面からスタートする本作ですが、その傍らには埋める死体を弄くる少女・水木しげ子さんが。死体の腸を弄ぶ彼女を朝生が見つめることに気づき聞いてくる、「あっ、おやりになりますか?」……なんという優しさか。何かに夢中になってる時にも気配りができるとか、しげ子さん天使か。
そんな天使のしげ子さんの左手小指から伸びる赤い糸が。あることがキッカケから特定の人に赤い糸が見えるようになった朝生は、その糸が自分の左手小指から伸びる赤い糸と繋がっていることに気づき……といった始まり方。
ここまで読んで、おや? と思われた方、少しだけ、ほんの少しだけおられるかもしれません。確かに、しげ子さんは死体を弄ったり、メスを常備していたり、食虫植物育てたりしてるけど、ヤンデレとか、そういうんじゃないです。ちょっとアレなだけなんです。ちょっとアレなだけで、とても可愛い子なんです。
断言しよう、しげ子さんは天使だと。
そういう意味では、最初の思い違いもあながち間違いではなかったかもしれない。君届のサダコは、祖父祖母から見た孫のような可愛さを持った女の子、というイメージで作られたキャラクターだ、というのを見た覚えがある。そういう視点でいくと、しげ子さんもそういった趣がある可愛さである。
まぁそんな朝生としげ子さんが出会い、学園生活を送る中で遭遇する事件と赤い糸に翻弄されながら紡がれる……なんだ? ラブストーリー??? しげ子さんかわいいよ!
あと、赤い糸についてですが、わかると思いますが、まぁ恋愛的な「運命の赤い糸」ではないです。まぁカバーのあらすじに書いちゃってるので、書いてもいいんですけど一応やめときますw

生煮えさんのイラストもよかった。まぁ主にしげ子さんのことですが。不気味ながらも美しい、という特徴が凄くよく出ていて、本を開いて目に飛び込んでくる口絵や、本文でのしげ子さん登場の挿絵がとても印象的。

装丁もかなり気を使ってやってるなぁという印象。白黒赤でまとめた表紙デザイン。タイトルロゴも、アンバランスな感じも作品にマッチしてる。本文も段落の数字が妙に下にあったりとか、凄く雰囲気ある。まぁ電撃はだいたい気を使ってるといえばそれまでだけども……今回はとても作品と上手く噛み合ってると思ったので。

というわけで、自分でもびっくりするくらい面白さが伝わってる気がしないですけど、本当にめちゃくちゃ面白かったし、大好きです。
あとがきに、「次巻も手に取っていただければ」という文面があるので、めちゃくちゃ楽しみに待ちたいと思います。
ああ、ホントしげ子さんかわいい。

きんいろカルテット! 1/遊歩新夢,DS

オーバーラップ文庫のOVERLAPキックオフ賞金賞受賞作。
読む前に友人に、「音楽版ロウきゅーぶ!」と言われたのだけど、なるほど、「女子中学生は最高だぜっ」と叫んでしまいそうだw

ユーフォニアムの奏者として音大に入ったものの、なんとなく身の入らない毎日を送っていた摩周英司は、恩師の紹介で、ユーフォニアム、コルネット×2、テナーホーンからなるブリティッシュ・カルテットという編成の女子中学生の指導を頼まれる。吹奏楽部を追い出された彼女たちの演奏に魅入られ可能性を感じた英司は、彼女たちのコーチを本格的に引き受けることにするが……といった様相。

好きなことを楽しみ、夢中になって、より上を目指す、まっすぐな少女たちの情熱と頑張りは、所謂、スポ根モノにも負けない熱さで、彼女たちの四重奏を想像してこちらの心が震える思い。先ほど挙げた『ロウきゅーぶ!』のそれに全く引けをとらないと言える。まったく、女子中学生は最高だぜ!
また、どうやら作者の方はプロのユーフォニアム奏者の方らしく、音楽のこと、楽器のこと、吹奏楽や金管バンドなどのことなど、 かなり微に入り細に入り解説……というわけではないのだけど、しっかりわかって書かれてあるので、そういう意味での楽しさもあるのも面白い。
正直なところ、スカ以外の部分では吹奏楽というモノにはあまり興味をそそられることはなかったのだけど、この作品を読んで何か聴いてみようかな、と思うようになった。音楽そのもの以外で、こういったモチベーションをつけられるのは、作品に力があるということなんだろうなぁと思う。
ただ、実のことを言えば、主人公のことはあまり好きになれないw なんというか、まぁ理由は色々だけども、でも、お話はそれを一息で吹き飛ばされる面白さでした。

DSマイルさんのイラストもよかった。
カラーのキラキラとしたような色彩が素敵で、本文の方も空気感を感じさせるイラストで作品を彩ってくれていて、挿絵を見るのが楽しい。
キャラも、特に女子中学生の4人。こないだまで小学生でした、という幼さがありつつも、少し大人びてきた色気もあって、微妙な年齢の少女が上手く表現されていて……まったく、女子中学生は最高だぜ!!!

というわけで、非常に面白かった。
2013年12月の発売でありながら、2013年後半のラノツイ杯の新作の部で2位を射止めるという快挙は、さもありなんというところでした。
2巻も楽しみにしています!

黒百合の園 わたしたちの秘密/秋目人,shimano

「黒百合の園」というタイトル、「いじめ、万引き、同性愛、レイプ、殺人……」という文句がどぎつい帯……これは百合百合しい少女たちのダークな学園青春モノが繰り広げられるに違いない! と、小躍りしながら読み始めたわけだけども、実際に読むとそこまでの感じではなかったw
まぁそれはそれと置いておくとして、面白い小説だったとは思います。

ある通り魔事件をキッカケに起きる人間関係の変化、その通り魔事件が起きるまでに至るキッカケ……悪意、というと大袈裟な気はするものの、そういったモノが連鎖していく様を読むのは、楽しい、というとアレかもしれないが、面白かった。
惜しいのは、この作品がメディアワークス文庫から出てることか。
メディアワークス文庫は、普通のラノベがメインターゲット……中高生くらいを設定しているのに対して、大学生〜若い社会人をメインターゲットにしているという話で、そう聞くと電撃文庫より濃ゆいモノを連想してしまうのだけど、実際には逆。電撃文庫より、単純に分量的に薄い本が多く、文字サイズも大きい。内容的にもライトな本が多い印象だ。これは、電撃文庫を読んできた人がメディアワークス文庫に移行していくということではなく、これまでラノベを読んでこなかった人に対してアピールしたいということだろう。実際、それは成功してるようにも思うし、まぁそのことは問題ないのだけども……たとえば今回のようなモノが、ちょっとライトな読み味になってしまう気がしてしまうのよな。
登場人物も割と多いし、それぞれ面白いだけに、いっそ2,3冊に分冊してキャラをもっと掘り下げて、人間関係やそれぞれの事柄をもっと濃密に描いてもよかったのではないかなーと思ってしまった。とても刺激的なコピーやあらすじに、思てたんと違う! と思ってしまったことがあるにせよw、それだけに、だからこそ、それでも面白かったというのは、お話自体が面白かったからということだと思うので、余計にそう思ってしまう。
まぁ、だから先に書いたように、この作品はメディアワークス文庫なのだよ、という話なんだろうけども。でも、このお話でもっと濃ゆいのが読んでみたかったのよなー……。

とはいえ、語り手が移り変わりつつ、それぞれの思惑や感情が絡み、彼女たちに起こった出来事の様子が表情を変えながら、真相が明らかになっていくのはエキサイティングで面白く、読み終わった後の満足感はありました。
秋目人さんの電撃の方の作品も読んでみるかなー。

カズアキ×深見真 百合姫表紙画集 GIRLS UPRISING

百合姫の表紙を彩ったカズアキさんのイラストと、それを味付けした深見真さんの短編小説をまとめた本。
画集らしく、大きめサイズでイラストは勿論フルカラー。小説部もレイアウトが凝っていて、相乗効果でとても楽しい一冊になっている。

倒錯した雰囲気をふんだんに纏ったカズアキさんのイラストと、ハードな面持ちを堂々とふりまく銃はいかにもミスマッチだけれど、だからこそ映えるという好例。
この本の表紙になっている首輪された紗香とそのリードを持つ千里、『赤か青か』の物憂げな琴乃に後ろから抱きつく芽久美、『そしてまた歩き出す』のおでここつんしてる紗香と千里……その全てに傍らに銃があり、別になくともそれらはいいイラストになっていると思うのだけども、何故かそれがとてもイイ小道具として機能していて、結果的にこれはなくてはならないと、そう思えてしまう。
して、その小説部なのだけど……「ハートの近くで待機する弾丸」という文章で、もうそれこそ、撃ち抜かれた。そんなもんだから、あとはもう世界にどっぷり惹き込まれて読んでしまった。
大きな戦争があり、おそらく人類の世界は遠くない将来、終わってしまうのではないか……という世界観の中で生きる少女たちの日常と恋が描かれる。少女たちの恋心と、硝煙が漂い血が飛び散る様は、まさしく深見真さんワールドで、麗しく可愛くかっこよくもあるカズアキさんのイラストとよくマッチしている。
お話として、何かこの世界の大きな問題が解決したわけではなく、少女たちの恋が何かがっつりと一段落したわけでもない。また、大きなサイズとはいえ100ページもないので、小説としてのボリュームは多くない。なので、もっと彼女たちの物語を読みたいと少し物足りない感覚を覚えるかもしれない。が、イラストの彼女たちの物語として読むのは非常に楽しい行為だったと思えて、読後の満足感は高かった。
そういう意味では、いつも読んでるライトノベルとは逆の形なのかなぁなどと思った。単純に分量としても短編小説1話分に対して、イラストがフルカラーで3枚ほどもありイラストの比重が高い。こういった形での小説とイラストという表現は、普通のライトノベルとはまた少し違った感触で楽しかったので、またあるといいなぁ。

少女と銃のイラストと小説の世界、とても楽しい一冊でした!

豚は飛んでもただの豚? 3/涼木行,白身魚

待ちました!w

完結した今、改めて考えてみると、この作品、なにか凄いことがあって云々だとか、とても面白いキャラがいて云々だとか、という作品では全くないんだよな。大筋としては、喧嘩っ早かった少年が、学校とボクシングと好きな人への思いで右往左往する話。その右往左往の様子がとんでもなくドラマティックだとか、主人公とヒロインのやりとりがとんでもなくロマンチックだとか、そういうこともない。そう書いてしまうと、普通の高校生たちのお話なんだけど、読んでいるとそんな作品の世界にガッチリ引き込まれる。
普通の高校生たちの青春、「今、ここ」を、鮮やか……ではないかもしれないが、真摯に、真っ当に、紡ぎ出されていく。不器用で素直ではない彼にとっての、そんな彼に関わる彼女たちにとっての、「今、ここ」。
なんでこんなに面白かったのかなーということを考えてみるに、丁寧な内面描写なのかなと。ちょっとしたこと、なんてことないことで起こった彼や彼女の心の動きをとても丁寧に抽出していて、彼らの心の動きを読むことによって、こちらの感情が突き動かされてしまう感覚。それによってなんでもないことがドラマティックに映し出されるのかなぁと。
なんでも書いてしまえばいいとは思わないし、内面そのものを書かないことで面白くなることはいくらでもあると思うけど、そのへんもいい塩梅で調節してあるのだろうとも思う。なんにせよ、この丁寧な内面描写が作品の世界をきらびやかにしている。
そして、彼と彼女が迎える、この作品のラストシーン。とてもこの作品に相応しいラストシーンで、本当にいい作品だったなぁと思わせられました。まぁ……もっと読みたいとも思うけどもw

白身魚さんのイラストも最後まで素晴らしい出来で、さすがの一言。
この作品の、彼ら彼女らの、今あるそこの1シーンをそのまま切り取ったかのようでありながらイラストとしても映えていて、サラッとした雰囲気なのに非常に見応えがあり、この作品を本当に彩ってくれていて、読んでいてとても楽しかった。

そんなわけで、涼木行さんの次回作、凄く楽しみにしてるので!!!

閃虹の機巧美神 1/来栖宍,BLADE

オーバーラップ文庫の新人賞、オーバーラップ文庫大賞特別賞受賞作。
機巧美神はダブルイクスというルビ。ジャンルとしては巨大ロボットモノ、機巧美神……女性型巨大ロボット!
待ってた! こういう女性型巨大ロボットが大活躍するお話待ってたよ!!
たまに出てもあくまでサポート役ばかりで、主役になることは殆どない女性型巨大ロボット。この作品では堂々主役! やったー!!!

人類と、海底勢力の荒鬼〈オルガス〉と、海竜〈レヴィアス〉が3分する世界のお話。
主人公は人類のマッチメイカという機関に所属する整備員・ティル。整備するのは勿論、機巧美神……なわけだけども、この機巧美神、なんと女性しか搭乗できない。読んでる当初は、お、これはパトレイバーにおける野明と遊馬のような(まぁ遊馬は整備員ではないけどw)絡みをやりつつ……みたいな感じなのかなぁと思ったらまぁそこは。すったもんだがあった末に……主人公女体化! うーん……よし! いっそ潔い! TS自体は大好物だし! 問題ナシ!!
と、まぁこんな感じで勢いとノリのよさはバッチリ好み。象徴的なのは、口絵でババーンと登場してるので見れば一目でわかりますが、バスティダイナマイトのBバズーカがわかりやすいですな。ルビはブレスト。ブレインストーミングじゃないよ。
話のクライマックスでマジンガーのブレストファイアーよろしく、バスティダイナマイトのブレストバズーカが火を噴いたシーンは、想像するだけで大興奮でしたわ。このシーンだけでも読んだ甲斐があったってもんですw
こういった、ちょっとおバカにも感じるノリの良さと意外と重めな背景、というのは一昔前のロボットアニメ的な印象も抱く。荒鬼は桃太郎、海竜は浦島太郎あたりかな、がモチーフになってる感じもなんかそれっぽい。まぁ一昔前のロボットアニメを詳しく見ていたわけではないので、あくまで印象ですけども。
ちょっと古臭いと言われればそうかもしれないが、なんとかこのままの感じで突き詰めていって欲しいなぁ、などと願います。

BLADEさんのイラストも秀逸。機巧美神、3体出てくるのですが、それぞれタイプB……バスティダイナマイト、タイプW……ツイストウェスト、タイプH……プリティヒップ。言わずもがなのおバカなネーミングセンスですが、だがそれがいいの何物でもない!w ……まぁその3体のメカニックデザインが大変素晴らしい。
グラマーで女性的なフォルムに美麗なバスティダイナマイト。一目見れば、死ぬ時は、彼女から放たれるブレストバズーカ・ニップルビームを全身に受けて死にたいと思わせることは必然であろう。
スレンダーで活動的な女性、且つしなやかな動きを想像させる、ポニーテールが印象的なツイストウェスト。一目見れば、爆ぜる時は、彼女から放たれるランブルパニッシャーで爆ぜたいもと思うのは仕方ない。
ツインテールとミニスカートがとてもキュートで、幼い少女を連想させるプリティヒップ。一目見れば、圧死する時は、彼女の超高性能多目的ぱんつ兵器精製装置ヴァリアブルアンダーによって圧死したいと、そう思う筈だ。
とにかく、挿絵の方も素晴らしい出来でBLADEファンも納得なのではないでしょうか。

と、期待を大きく上回る、満足感の高い作品でした。この1巻で割といい感じに締めくくったので、2巻以降どうなるのかな……といった部分はありつつも、楽しみにしたいところ。

あと、荒鬼のトップ2人に、なんとなくホモの匂いを感じるのですが、そちらも期待していいのでしょうか……!

男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。I ─ Time to Play ─ 〈上〉/時雨沢恵一,黒星紅白

タイトルなげえよ!w 一時期流行り流行りと言われた長文タイトル、どころの話じゃないw ……略称なんですか(切実)

さて、時雨沢恵一さんと黒星紅白さんというある意味お馴染みのコンビで贈られるこのライトノベルですが……長いタイトルが示す通り、高校生ラノベ作家とそのクラスメイトのJK声優のお話。そして、そのタイトルのままに、首絞めスタートの幕開け。JK声優に首を絞められるなんて最早ロマンを感じるタイプのドMの人は……まさにクビシメロマンチs
高校生ラノベ作家が、どうしてJK声優に首を絞められることになったのか……電撃小説大賞に応募するも色々な事情があり受賞はならなかったものの、所謂、拾い上げという形でラノベ作家としてデビュー。売上げも好調でアニメ化も決まり……という、ラノベ作家としては順風満帆であるが、その為、色々なことを考慮し高校は1年間休学することに。復学するにあたって、出席日数の厳しくない私立の高校に入り直したその先で出会った似鳥絵里は、彼の執筆したラノベのアニメの出演者だった。2人はお互いを作家と声優という立場を認識した後……と、首を絞められながら走馬灯のように思い返されていく。
話の中で、ライトノベル作家、その業界のこと、小説のあれこれや創作するということなどが語られ(勿論、誇張やあえて語ってないことなど色々あろうが)、ラノベファンなら思わずふむふむと興味深く読んでしまうのではないだろうか。そのへんは非常に面白い。
また、そういうことだけでなく、2人の掛け合いは小気味よく、読んでいて楽しい……楽しいのでどんどんと読んでいってしまうのだけど、そうやっていると残りページの少なさに気づく。あれ、なんで首を絞められているのか全くわからないぞとw
最初買った時は長過ぎるタイトルに気を取られて全然気づいてなかったのだけども、これ「I」とか「上」とかついてるのだなw くっそー、次も買うしかないじゃないかw

イラストも流石ですな。われらがようじょのひかりをじゃなかった、我らがズヴィズダーの光をあまねく世界に! が話題の、言わずと知れた黒星紅白さんですが、表紙の似鳥の麗しさときたら。 本文でもその可愛さを十二分に発揮されとります。

あと、カバーの裏面の遊びも非常にポイント高い。こういった演出自体は近年目新しいものではないとは思うけど、『ラノベ』が題材なだけにとても映える。

そんなわけで非常に面白いラノベでした。下巻もすぐに出るらしいので、早く続きが読みたくて仕方ありません。

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